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<生駒市中学生約1700人に一斉授業>やさしさの授業ーみえない多様性ー

<書き手 キャリア教育プランナー尾崎>

今年度が始まったばかりの4月、市内の校長先生からご相談をいただいた。
「生徒たちに“やさしさ”を教えてほしい。尾崎さんなら私たちが全く発想できない角度から授業を考え付くのではないかと思っています。できるなら全部の中学校、全部の学年で一斉に受けることが理想です。」

もちろん、学校で日々先生たちがやさしさについて伝えているが、外部人材だからこそ今までとは違った気づきを生徒に与えることができるのではないかと期待をしてくださっていた。

校長先生が相談をしてくれたことも、一斉に授業をするチャンスをいただけたことも、私を信頼してくれてのことだったので大変嬉しかった。
しかし、授業イメージは全く湧かなかった。

そこから約半年間、ずっと悩んでいた。
ただの講義では私が行う意味がない。
50分という短い時間で体験と気づきと振り返りを詰め込みたい。
中学校の生徒指導に関わる先生に何度も相談に乗ってもらったり、平和学習の専門家に案を聞いてもらったり、心理の専門家に会いに行ったり、多様性に関する本を読んだり。
「やさしいってなんだ?」「中学生はやさしくないのか?」「じゃ、大人はやさしいのか?」「人って誰にでもやさしくなれるもの?」「自己理解とやさしさって関連性ある?」「多様性とやさしさって似てる?」「日本と世界で違う?」など色んな問いを自分の中で考えていた。

<みえない多様性のカードゲーム>

悶々として迎えた夏休み。
あるカードゲームが目に留まった。
日本イーライリリー株式会社の中のヘンズツウ部が作っていた「みえない多様性」のカードゲームだ。

周囲の人からみると一見自己中心的な振る舞いにみえたりする他者の行動でも、実はその裏には「もしかしたら周囲からはみえない病気や不調など隠れた理由=“みえない多様性”があるのかもしれない」と当事者の立場になって想像するもの。
シーンカード…周囲からみたら自己中心的にみえる具体的な行動が書かれたカード。
リーズンカード…「もしこれが理由だったら?どんなことがありうる?」と今まで考えたことのない角度から理由を考えるヒントカード。

選んだシーンカードの背景にある理由をリーズンカードのキーワードを使って考えていく。
みえない多様性のカードの説明

すぐに連絡を取って、「中学生バージョンに修正して活用してもよいか?」と相談したところ、快諾してくれた。

中学校にありがちなシーンと理由を中学生の保護者に相談しながら設定。
【シーンカード(例)】
■別のグループでは笑顔で話してたのに、こっち来たらすごく不機嫌。
■きのうは「ずっと友だちだよ」って言ってたのに、今日はそっけない。
■小学校の時は元気だったのに、中学校に上がってからおとなしくなった。
■「制服似合ってるね」とほめたのに「はぁ?」と言われた。
■マラソン大会「一緒にゴールしようね」って約束したのに先に行っちゃった。

【リーズンカード(例)】
■もし、その原因が「芸能人」だったら?
■もし、その原因が「月」だったら?
■もし、その原因が「公園」だったら?
■もし、その原因が「エアコン」だったら?

中学生用のカードゲームが完成

<当日の授業の流れ>

当日は1700人以上の中学生が授業に参加した。

①カードゲーム

私は自分を「やさしい人間」だと思っていない。
だから、すごく悩んできた。
やさしさを辞書で引くと“思いやり”と出てくる。
更に思いやりを辞書で引くと“想像”と出てくる。
だから、まずは想像することから始めてみよう。
カードから行動の背景にある理由を考えてみよう。

②各班で考えた理由をインタビュー

過去最大の参加校、参加人数だったが臆することなく、どんどん生徒から手が上がった。
■制服が似合うね、に対して「はあ?」と返したのは不機嫌になったからではなく、自転車に乗っていて相手の声が聞こえなかったから聞き返しただけ。
■前髪命だったけど、好きな人から前髪を上げた方が良いと言われた。
■一緒に走ろうと約束をしていたが、トイレに行きたくなったので、マラソン大会を途中で抜けた。
などリーズンカードを活用して様々な角度からシーン(行動)の裏にある背景を想像していった。

③解説

同じ年齢、同じ地域で暮らす人でも相手が自分と同じ考えを持っているとは限らない。
身近な人の背景すら私たちは実は知らない。気が付いていない。
自分の正論や当たり前を相手に押し付けると知らないうちに暴力にもなることもある。
多様性の時代、相手に対する想像力を持っていないとハラスメントの加害者になる可能性もある。逆に相手に対する想像力が資産にもなる。
だから、理由カードを増やそう。「なぜだろう?」「何かあったのかな?」と考えれば考えるほど、理由カードが増える。つまり、自分の想像力の引き出しが増える。
今、目の前で起こっていることをスルーしたり、感情的にならず、友だちの奥にある背景を「ん?どうしたんかな?」「何があったのかな?」と立ち止まって考えることから始めてみよう。

<生徒のアンケートより>

■考え方が変わった
・授業をする前とした後で優しさの感じ方が変わった。
・優しさの概念が変わりました。
・そういう見方もあるんだなと、他の子の意見を聞いていて関心を持った。
・自分の価値観を少し変えてくれた。

■視点が増えた
・人にとって「やさしい」の意味って違うのだなと感じ、一つの物事を色々な角度からみることで、新しい発見や理由が見つかるのだと思った。だから、想像力って大事だと思うし、想像力をもっと伸ばしていきたいと思った。
・自分はすぐにイラッとくることが多く心が狭い人間だけど、今回の授業を受けて他の視点で考えてみるとまた違う考えが出てきたりすることをしれて、とても得られるものが多かったです。
・「そうか、そういう見方もあるのか。」と、視界が広がったような気がした。

■誰かの「正しさ」は誰かにとっての「暴力」
・人によって正しいこと、当たり前なことは違うことがわかりました。そして、その正しさを無理に押し付けるのは暴力なんだと学びました。
・これからは誰かの「正しさ」が、誰かにとっての「暴力」になりえることを意識したい。
・誰かのために守ろうとすると、別の誰かが傷つくことがあることがよくわかりました。

■カードゲームからの学び
・イメージのカードゲームも、たくさん頭の中でイメージをすることができたので楽しかったです。
・これからの学校生活でも、たくさん頭の中でイメージすることの機会を増やしていきたいです。
・カードゲームのとき友達が「そんな視点から見る?!」というところからものを見ていたので、とても楽しかったです。
・同じテーマやリーズンカードでも、人によってそれぞれどう捉えるかが違っていて、こういう理由もあるんだなと新たな気づきもあって、とても濃い1時間になりました。
・友達の心情や空気みたいなものを汲んでやれない時があって、結構不安だったけど、もっと色々な経験を積んでカードを集めて、思いやりのある人間になりたいと思えました。

■複数校での実施
・他校の子とも交流できて、意見交換も多種多様なのがたくさんあって「私と同じ考えだ!」と思うこともあれば「そんなこと全然思いつかなかった!」というときもあっておもしろかったし想像力も人それぞれだということを改めて感じた。