多面性が凝縮されているから、私たちは本に、図書室に、そして学校司書に惹かれるのかもしれない。
生駒北小学校・北中学校の図書室にはお二人の学校司書がいます。
今回はそのうちのお1人、大東先生にお話をお伺いしました!
今日はよろしくお願いします!
早速ですが、学校司書になったキッカケを教えてください!
以前は生駒市の図書館に勤めていました。そこで児童班(図書館で子どものエリアを担当するチーム)の先輩が「生駒市が学校司書を始めるらしい!」と教えてくれました。
児童班で仕事をしていた時から、「子どもたちと触れ合っていると、すごく楽しい!子どもに本のことを聞かれたら、すごく嬉しい!!!」と感じていたので、「いい仕事だなー。ぜひやってみたい!」と思いました。
本もあるし、子どもたちもいるなんて、私にとっては最高の環境です。
先生とお話をしていると、本と子どもたちへの想いが伝わってきます!
図書室ではどんな取組をされていますか?
毎月色々なテーマで本を展示したり、ブックトークをしたり、お試し読書をしたり、先生方のおすすめ本を掲示したり。
日頃の選書も大人から見ると「え、こんな本?」と思うものでも、子どもたちに受ける本を混ぜてみたり。読んで楽しい本を選んでいます。
あの手この手で子どもたちの興味を引こうとしていますね。
私、ブックトークって初めて聞いたのですが、
どのような取組ですか?
ブックトークはテーマに沿った本を色んな分野から6~7冊くらい集めて、その本を読みたいと思ってもらえようなトークをする取組です。
「登場人物の名前が面白い」「ファンタジーの世界」などテーマも様々です。ファンタジーの世界をテーマにした時は、物語の世界の地図を大きく印刷して主人公の旅した道を掲示したり、ビジュアル的にも子どもたちの興味を引くような工夫をしています。
テーマが面白いですね!
今まで開催したブックトークで印象に残っているエピソードはありますか?
障がい者理解をテーマにしたブックトークをした時のことです。マイノリティを理解する本をいくつか集めたのですが、そこで『僕は上手にしゃべれない』という吃音についての本を取り上げました。トークが終わってから、中学校の1人の生徒が「実は私、吃音だったんです。だから、吃音について取り上げてくれて嬉しかったです。」と言って、本を借りて行ってくれたんです。その後、「ビブリオバトルでこの本を紹介しようと思います。」とも言ってくれました。
それは素晴らしいキッカケですね!
他にも印象に残っているエピソードはありますか?
何年か前の話ですが、授業の間の休みごとに図書室に来る小学生がいました。ある日「どうして私が毎回ここに来るか知ってる?」とその子が私に質問をしてきました。
「友だちとケンカをして教室にいたくない」と自分のことを話はじめてくれたので、私は「うんうん」と頷いて聞いていました。
ある時から、その子は休み時間に図書室に来なくなりました。
教室にいやすくなったのかな、と思うと嬉しかったです。図書室には来てほしいけど、その子にとっては良いことかな、と。
10分の休みですら教室にいれない子が図書室に来ることもあります。だから、心のオアシスのような図書室でありたいな、と思っています。
図書室は子どもたちにとって大切な居場所なんですね。
北小学校と北中学校は小中一貫なので、図書室も一つですが、
学校司書としてどんなことを意識していますか?
最初は「小学校1年生と中学校3年生が同時に使う図書室がどうあるべきか?」について、かなり悩みました。
中学生が読む本は大人の本が多いんです。
自然科学とか歴史など授業で活用する本も中学生と小学生の本が混在していると調べにくいんです。
その問題を解決するため、短時間で目当ての本を探せるよう、各分野の本棚の「上は中学生向け」「下は小学生向け」と上下で分けるようにしました。
物語についても、小学生にはちゃんとした名作を読んで欲しいし、しかし中学生向けにはライトノベルを入れたいし、、、と未だに悩みながら、工夫して中学生の選書をしています。
利用の対象が広いと工夫すべきことが倍になるんですね。
逆に小中一貫校の図書室のメリットもありますか?
小学6年生に中学校の本をお試し読書をする機会を作っています。
中学生の教科書に載っている本を先行して読むんです。
ちょっと先に触れることができるのはメリットだと思います。
中学生向けの学習の本を借りて勉強している高学年の子もいますし、中学生が小学生向けの本に戻って絵や物語を楽しんでいる子もいます。
これらは小学生と中学生が混在している図書室だからこそ、できることだと思いますね。
それはとっても良いですね!
最後に、大東先生の最近のおススメの本を教えてください!
加納朋子さんの「空をこえて七星のかなた」ですね。主人公は春から中学生になる女の子。そのお母さんがすごい人。その人を中心に物語が展開していくのですが、実に鮮やかに、爽やかに自分の夢を追いかけている人と、それに振り回されながらも、影響を受けていく周囲の人。
読後感が爽快です!
〈編集後記〉
家に帰って、すぐ紹介してくれた2冊の本を読んだ。
大東先生からブックトークのエピソードを聞いた時、「素晴らしいキッカケですね!」と軽い気持ちで返事をした自分を恥じた。吃音の子が自分を受け入れ、感謝を伝え、大勢の前で自分自身がこの本を紹介したいと言った。その想像を絶する勇気や覚悟を私は1ミリも理解できていなかった。『僕は上手にしゃべれない』の著者である椎野さんがあとがきに綴った「少しでも吃音症への理解が広がれば。吃音を考えるキッカケになれば。」という想いのバトンを大東先生が受け取り、それをまた生徒が繋いでいく。
本が持つ力はなんと優しく、強く、深く、広いことか。
『僕は上手にしゃべれない』も『空をこえて七星のかなた』(伏線回収の物語なので、あまり語れない)も人間は多面的であることを教えてくれる。今、目の前で笑っている姿だけを切り取って、その人を語ることはできない。人間は立場や経験によって面が増えていくが、関わる人は一つの面しか知ることができない。多面的だからこそ、相手を理解するのは難しいのだか、それゆえに人間は面白くて魅力的なのだ。
北小学校と北中学校の図書室は多くの面を持っている。過去に戻れる場所であり、少し先の未来に触れる場所であり、世界を広げる場所であり、誰かのバトンを受け取る場所でもある。
大東先生に感じる魅力も、また同様。春の日差しのような近くにいるだけで心穏やかになる温もり、本について語る子どものようにキラキラした眼差し、子どもたちに本に興味を持ってもらうために仕掛ける熱意。たった30分のインタビューにも大東先生のたくさんの面を知ることができた。
多面性が凝縮されているから、私たちは本に、図書室に、そして学校司書に惹かれるのかもしれない。