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図書室に来る人は「本」を探しているのではない。自分の欲している“なにか”を探してる。

今回は大瀬中学校の山本司書さんにお話をお伺いさせていただきました。

大瀬中学校の学校司書をされている山本先生

先生はなぜ学校司書になろうと思ったのですか?

実は、学校司書になって2年目なんです。その前は奈良のホテルで広報の仕事をしていました。

え?!ホテルで広報していたんですか?!
大きな方向転換ですね!

はい、学校司書とは全然違う職種についていました。
ホテルのお仕事も楽しかったですが、私には「これができる!!」「これがしたい!」と胸を張って言えることが見つからなくて。そんな時、友達が「あなたは本が好きやん。」と言ってくれたことをキッカケに本に関わる仕事につきたいと考え始めるようになりました。本はずっと読んでいたのですが、それが自分の好きなことだと堂々と語れることに、その時初めて気がついたんです。
ちょうど誕生日が近いこともあって、自分へのプレゼントとして、司書の学校に通う時間とエネルギーとお金を使うことにしました。

資格を取得したタイミングで学校司書の募集を生駒市が行っていたので、ご縁をいただき大瀬中学校の学校司書になりました。

学校司書のどういうところが楽しいですか?

中学生と話をすることって普段あまりないので、彼ら彼女たちが考えていることや興味のあることを聞くのがとても楽しいです。とても新鮮な毎日を送っています。

学校司書として夢や目標はありますか?

はい。図書室に1回も来たことがないという生徒がいないようにしたいです。
実は私自身、高校の図書室は覚えているのですが、中学校の図書室の記憶がないんです。
卒業した後や大人になってから「大瀬中学校にこんな図書館あったな。」「行ったことあるからどこにあるかわかる!」と覚えていてもらえるような図書室を目指しています。

ものすごく素敵な目標ですね!
理想の図書室にするためにされていることを教えてください!

図書室は本を読むところですが、学校の中にある楽しいスポットにもしたいと思っています。イベントをするとみんな来てくれるんです。イベントに来て「せっかく来たから本を借りていこうかな。」と自分の興味のある棚に行く生徒もいます。本に出会うキッカケを増やして行けたらいいな、と思って続けています。

おすすめの本を生徒が飾るクリスマスツリー
ラッピングで中の本が見えず、図書委員からのコメントだけが載っている。
サンタさんからのプレゼントのように開けるまでワクワクする借り方もできる。

学校のTwitterにも季節に合わせたイベントの投稿がたくさんありますね!

はい。「よくこんなイベント考えつくね!」と言ってもらえることもあります。
夏はかき氷型のしおりを並べて、かき氷屋さんっぽくしたり、運動会の季節は「読書玉入れ」というイベントを企画し、1〜3年生までを縦割りチームに分けて、本を借りたら玉を入れて、借りた本の冊数を競ったり。
クリスマスの時期は自分の好きな本やおすすめの本を読書ツリーに飾っています。

本を読んでいない子も「ちょっと行ってみようか」と思ってもらえるイベントを企画するようにしています。

面白いですね!どんなふうに企画を考えているのですか?

急に閃く時もありますし、他の学校のイベントを参考にする時もあります。
企画する際に意識していることは「自分がいて楽しい空間にする」ということです。楽しいイベントを考えるために、まず私自身がワクワクしながら図書室づくりを考えています。

愛される図書室づくりのコツが見えた気がします!
生徒たちの言葉で印象に残っていることはありますか?

最近嬉しかったのは、1年生の子が「卒業するまで大瀬中学校の司書でいてね!」と言ってくれたことです。おすすめした本の感想を言い合ったり、「この本がめっちゃ好きだ」と教えてくれたり。そういう生徒たちとの会話から「次はこういう本を入れてみようかな!」と普段だったら思い浮かばない選書ができるようになるんです。なので、できるだけ生徒たちから気軽に声をかけてもらえるように休み時間に廊下を歩き回ったり、「探している本や読みたい本があるかな?」と聴きにいったりしています。

日頃から図書室の外にでてコミュニケーションをとっているんですね!
生徒たちは最近、どんな本が好きですか?

実は同じ中学生でも去年と今年で傾向が違うんです。
去年はクイズの本が人気だったのに対して、今年は医療系のシリーズが人気です。
空想科学読本も去年は触った人がいなかったのに、今年は「もっとシリーズを入れてほしい」と言ってきてくれます。いろんな本を手に取ってもらえるように、今年は面(表紙)が出るような展示を増やしました。中学生は表紙を見て「面白そう」と手に取ることが多いんです。
イベントにフラっと来た子がタイトルだけでなく、表紙を気に入って手にとるということにも繋げたいと思っています。

あと、生徒たちがあまり借りないジャンルでも、興味を持って借りにきてくれた時に「そのジャンルはないのよ」とは学校司書として言いたくないので、ちゃんと用意しておくようにしています。

先生のおすすめの本を教えてください!

『教室に並んだ背表紙』『お探しものは図書室まで』です。
両方とも司書が主人公のお話です。ベテランの司書さんが、来た人の悩みに沿った本や欲しい言葉をさっと出してくれるんです。
私自身がこういう司書さんになりたいという思いを込めて、おすすめします。『教室に並んだ背表紙』は最近の中学生が悩んでいることや考えていることを学校司書さんが解決していくお話ですので、今の中学生も共感できる内容だと思います。

先生はもっともっと学校司書として成長されたいと思われているのですね!

やっぱり、ベテランの司書はすごいです。「そんな本があるのか!」と驚かされます。だから、他の学校の図書室や他の地域の図書館、高校や大学の図書館を見学して勉強したいと思っています。
きっと、生徒たちの興味を引くような展示や選書のヒントが見つかると思うんです!色々なものを吸収しながら、司書歴が浅く常識にとらわれずにチャレンジできる私の強みを活かしてどんどん形にしていきたいと思います!


<編集後記>
先生のおすすめしてくれた本を2冊読んで、こんな言葉が浮かんできた。

「ドリルを買いにきた人が欲しいのはドリルではなく『穴』である」
※アメリカの学者レビットの著書『マーケティング発想法』(1968年)で紹介

「何をお探し?」という主人公の司書の言葉にずっと違和感があった。
なぜ「どんな本をお探し?」ではないだろう。
図書室は本を読みに行く場所であり、本を探す場所だと思っていた。
しかし、図書室は本を通して、もっと大きな“なにか”を探す場所なのだ。
ある人は居場所、ある人は自分の感情、ある人は未来へのキッカケ、ある人は過去の払拭。
探しに来た本人もわからない“なにか”、言葉にできない“なにか”を司書は会話から受け取って、ヒントとなる本を提案する。
本はあくまでも本当に探している“なにか”を得るための手段なのだ。

それがわかっているからこそ、主人公の司書たちは「本」に限定しない質問をする。
そのプロフェッショナル感が堪らなくカッコよかった。

本の主人公の司書さんも大瀬中学校の学校司書の山本先生も、お医者さんのような高い専門性と駄菓子屋さんのようなアットホームな敷居の低さを併せ持っている。
だから、悩みを抱えた人たちの心にスッと入る本を提案できるのだ。

ああ、学校司書ってものすごくカッコよくて、とってもあたたかい。